「はじまりの美術館」のはじまり。


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生きることは表現すること。
今、ふくしまから、アートで生きることを表現していこうとしている人がいる。
この再生に向けての活動は、ふくしまの希望になるだろう。

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「はじまりの美術館」のはじまり。

東日本大震災から四度目となる2014年の春、福島県の中央に位置する猪苗代町に、ちょっと変わった美術館がオープンします。名前を「はじまりの美術館」とする予定です。

ここ福島県では原発事故による避難は引き続き先の見えない状況が続いていますが、高線量地域を除いた各地では復旧作業が進み、人々の生活は日常を取り戻しつつあるようにも見えます。
その一方で、被災地では「地域がもともと抱えていた問題」が震災前に増して顕在化しているといわれます。加速する少子高齢化、地域コミュニティの疲弊、失われつつある歴史や伝統・・・。地域が長い年月をかけて培ってきた文化(文物・記憶・関係・歴史)は、その土地の財産であり、そこに住まう人々の生きた証とも言えます。それらが物理的にも、伝承的にも途絶えつつあるというのは、とてももったいなく、寂しい限りです。例えるなら、祖父母の代から通った学校が廃校で取り壊され、歌い継がれた校歌も歌える人がいなくなる、といったところでしょうか。そういった状況が被災地域では広範囲に、あるところでは地震や津波の災害で目に見えて、またあるところでは原子力災害による県外避難が拍車をかける過疎化によって人知れず、進行しているのです。
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十八間蔵・昨年の様子2
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そのような中、今「アート」の力が注目を集めています。「アートによる地域の再生」という言葉を耳にするようにもなりました。地域にもともとある資源を、アートを媒介として新たな切り口でとらえ直し、若い世代に地域の魅力を再発見してもらう、地域を掘り起こすというもので、各地で様々な取り組みが展開されています。また、障がいを持つ方の優れた芸術表現も「アール・ブリュット」や「アウトサイダー・アート」など、「アート」という文脈の中で関心が高まっており、国内にとどまらず、ヨーロッパでは各国を回る巡回展が開催されているほどです。
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蔵内部2

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支援員である私は知的障がいと言われる皆さんの表現に身近で接するにつけ、(誤解を恐れず言葉にすれば)その勢いだったり、執拗さだったり、思いもつかぬ発想だったり、受けるエネルギーだったりといったものに尋常ならざるものを感じ、その筆舌に尽くせなさ具合を、奇異に感じたり、感心したり、驚いたり、呆気にとられたりと、様々な感情を喚起させられてきました。福祉事業所内で繰り広げられるそれら表現を目の当たりにして、私たちが思ったのは「もったいない!」です。こんなことを自分達だけが味わっているのは「もったいない!」と。そこには、人を惹きつける魅力とともに、現代社会の閉塞感を打ち破って乗り越えていくための、様々なヒントやパワーが溢れているのでは?そんなふうに感じています。
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蔵壁面

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そのような中、私たちは機会を得て、猪苗代町で震災を持ちこたえた「十八間蔵」という大きな蔵を美術館へと再生することになりました。築約120年といわれるこの蔵は、旧会津藩所領の山から伐り出された見事な材木を用い、建設当時は酒造蔵として、戦後はダンスホールや縫製工場として、町の人々に親しまれ、ともに年月を経てきたとのことです。そのような歴史を持つ建物を舞台として、この場所がアートを通した楽しみや発見、出会い、つながりの、はじまりの場所になればと考えています。
「アート」や「障がい」と聞くと、みなさんはどんなイメージを持つでしょう?どちらも馴染みのない印象を受けるかもしれませんが、じつはなにも身構えることのないものごとで、私たちの中や身近にあって、私たちひとりひとりの生を豊かにしている、欠くことのできない一部、なのではないでしょうか。今回設置する美術館は、そういったことを前置きなしにでも、直感的に感じ、体験してもらえるような場所となり、いろんな楽しみを皆さんと積み重ねていければと考えています。その中で、福島の置かれている状況や私たちのこれからについても、感じ考えるきっかけとなれば幸いです。

              社会福祉法人安積愛育園 はじまりの美術館準備室 岡部兼芳