第6話 星純平さん

全盲のマラソンランナー・福島市の星純平さん(37)から、興奮ぎみに電話がありました。

「今日、白石蔵王ハーフマラソンを走って来ました。昨年よりタイムは5分縮めました。でも今日は、それ以上に嬉しい事がありました」と。

星純平さんは、2年前にマラソンを始めました。

目指すは「サブ・スリー 」。

サブ・スリーは、マラソンを3時間以内で走ること。アマチュアランナーの5%しか達成できず、目標であり夢。

しかし、星純平さんのように伴走者を必要とする視覚障害者には、かなり高いハードルとなっています。

9月初旬、北京オリンピックマラソン代表の佐藤敦之選手に桧原湖畔で2日間にわたって指導を受けた星純平さんは、今回の白石蔵王ハーフマラソンに自信を持って臨みました。

その成果が出たのがスタートから8キロ過ぎでした。

伴走者の中村さんが言いました。

「純平さん!こんなに速いペース、俺ついていけないよ。今キロ3分45秒だよ。伴走は、10キロまでが限界だよ」

それを聞いて純平さんはビックリしました。

なぜならば、純平さんは1キロ4分30秒のペースで走っているつもりだったからです。

自分の思っていたペースより45秒も速く走り、さらにかなり体に余裕があることに、純平さんは改めて驚くとともに、佐藤敦之選手の指導力の高さと効果に、オリンピックを目指すアスリートのレベルの高さを実感しました。

その時、伴走者の中村さんが横を走っていた一人の青年に声をかけました。

「お兄さん、速いね。もし可能だったら、10キロから15キロまでの5キロを、私の代わりこの人の伴走してもらえないでしょうか?」。

青年は、少しはにかんだように言いました。

「ぼ、ぼ、ぼくで良かったら、喜んで」

青年は地元の養護学校を卒業した25歳の知的障害者でした。

菊地さんといいます。

菊地さんは、星純平さんの予想を上回るペースで、純平さんを引っ張ってくれました。

約束の15キロで菊さんは、「ゴールで待ってます」と言い残し、あっという間に駆けていきました。

15キロからゴールまでは、いつも純平さんをサポートしている斉藤さんが伴走を担当しました。

斉藤さんとゴールした星純平さんを待っていたのは、菊地さんの満面の笑顔でした。

隣には、息子が無理やり伴走をかってでたと思い込んでいた菊地さんのお母さんが心配そうに立っていました。

握手を求めて礼を言う純平さんに菊地さんは、「僕はいつも誰かの世話になっています。だから、困っている人がいたら、助けてあげたいんです」と、たどたどしいが、しっかりとした口調でいいました。

視覚障害者を知的障害者がサポートして走る姿に、日本の進むべき未来の福祉やスポーツ、社会のあり方を重ねて、胸が熱くなりました。

星純平さんと菊地さんをつなぐ一本の輪を、純平さんは「絆」と呼んでいます。

第5話 幸雲の陽真(はるま)くん

須賀川インター近くのワンタン麺が美味しい「幸雲」の女将さんと長男の陽真(はるま)くん。

 

幸雲の陽真くん

 

美人女将は神奈川県川崎出身。陽真くんは、待望の赤ちゃん。今年1月に川崎で出産、3月に須賀川に戻ってきた。

「川崎の両親は、福島に帰ることに不安はなかったか」を聞いた。

昨年の10月から、出産さんの為に帰省していた娘と一緒に、両親は放射線について勉強した。

パソコンを使い毎日須賀川の放射線量をチェックした。

その結果、赤ちゃんが須賀川で生活するのには全く問題がないという結論に達した。

安全は、基準にてらせば判断できる、しかし、安心は、化学や医学に判断をもとめても、リスクは0(ゼロ)にはならないことを示すにとどまる。

川崎の両親は、月2回は須賀川を訪れ、孫の成長に目を細める。

そして帰りには、JA農産物直売所「はたけんぼ」で、地元の農産物を山ほど買って帰る。

両親の愛情と福島の自然に育まれて、陽真(はるま)くんは、スクスクと育っている。

福島で生きて行こうと決めた人達の未来に栄光あれ!

第4話 幸福感

県立医科大学被ばく医療班の長谷川有史先生に話を聞いた。

長谷川先生は、放射線にだけゼロリスクを求める無意味さを坦々と説く。

生きること全てにリスクが存在するのに、原発事故を受けた我々は放射線のリスクだけは許容出来ないと、もがき苦しむ。

その結果、「人間らしく生きること、幸福感をなくしてしまった」と指摘する。

また、「科学はリスクがゼロではないということしか、教えてくれない」と話す。

安全は数字の裏付けが必要だが、安心は自らが闘って得るものだと力説する。

ドクターヘリに乗り、外科医として多くの命と向き合ってきた長谷川先生だからこそ、今医療の原点は心のケアだと断言する。

この福島で、幸せに生きること事の意味を、長谷川先生は私達に問いかける。

その長谷川先生が尊敬するのが、南相馬市鹿島区の仮設住宅の一角に誕生した「絆診療所」の遠藤清次院長。

長谷川先生と遠藤先生は、かつて郡山の同じ病院で外科医として勤務していた。

また遠藤先生は、元小高病院の院長として、地域医療の現場で頑張ってきた。

医師が三人となり、存続の危機にあった小高病院 を支えてくれた住民の為に、自費で「絆診療所」をオープンさせた。

コンセプトは、「仮設住宅から孤独死を出さない」

福島県から多くの医療従事者が離れていく中で、
長谷川先生や遠藤先生のように腹を据えて地域医療を守ろうと活動するDoctor にもっと県などは支援をしてほしい。

第3話 上野敬幸さん

★南相馬市原町区萱浜(かいはま)の上野敬幸(たかゆき)さん39歳を取材しました。

上野さんは、津波で両親と長女(8)・長男(3)の4人を亡くしました。

お父様と長男は、まだ見つかっていません。

壊滅的な被害を受けた萱浜にあって、奇跡的に上野さんの自宅建物の外観だけが残りました。

震災後、その自宅は格好のカメラスポットになりました。

津波に破壊された自宅玄関前には、家族の写真と焼香台が置かれています。

写真に手を合わせ、線香を手向け、自宅の写真を撮る人達に、上野さんは何も言いませんでした。

しかし、土足で家に入り込み、傍若無人に写真を撮る人達に対し、上野さんはしばしば怒りを爆発させました。

「ここは観光地じゃない。被災地だ!」

★事故を起こした東京電力福島第一原子力発電所から22キロのこの地に自衛隊が捜索に入ったのは、震災から1ヶ月以上が過ぎていました。

「誰も手伝ってくれない!」。

行方不明者の捜索は、上野さんら地元消防団員10人に委ねられました。

「排水ポンプがあれば、重機があれば、協力者がいれば、もっと早く家族を発見できたのに・・・」。

寒さの中、懸命の捜索活動が続きました。原発事故や放射線は全く気になりませんでした。

「家族に会いたい!」

その思いが、疲れた体を動かしていました。

地元消防団は、40人以上の遺体を収容しました。

皆、顔見知りでした。

上野さんは言います。
「原発事故がなかったら、救えた命があったかもしれない。
原発事故がなかったら、もっと早く家族に会えた人もいる。
原発事故は、人災です。当時の菅総理や東電社長は此処に来て謝るべきだ。それがないかぎり、私は政府も東電も許さないと」と。

★金魚アートの深堀隆介さんがこの程、上野さんの亡くなった8歳の娘さんと、3歳の息子さんの布製のズックに、金魚を描きました。

深堀さんの金魚アートは、透明なアクリルに描かれた金魚の絵が、何層にも透明樹脂を流し込むことで、立体感をもって生きているように迫ってきます。

上野さんと同い年の深堀さんは、亡くなった子供達と、自分の子供の存在が重なりあいました。

魂の金魚アートは、4ヶ月の歳月を費やし、完成しました。

娘さんの金魚の脇には、美しい桜が、息子さんの金魚の脇には、花火が描かれています。

★今年3月11日、深堀隆介さんは一編の詩を作りました。

「水底(みなそこ)の花」

あの日、水が全てを持って行ってしまった。

家も、人も、思いでも。

今も深い海の底で眠っている、尊い命よ。

聞こえますか、私達の声が。

呼んでいますか、私達の事を。

あなたたちの事は決して忘れない。

私達の心に永遠に咲き誇る、水底の花。

第2話 月曜Monday

明日、9月24日(月曜日)の「月曜Monday ( もんだい)夜はこれから」のPR !

明日はゲストに福島市山口は常円寺の住職・つるりん和尚こと、阿部光裕(あべこうゆう)さんと、東京大学医科学研究所特任教授の上昌広(かみまさひろ)先生のお二人を迎え、これからの福島県の復興・復旧に欠かせない除染・医療・教育などについてお話を伺います。

阿部光裕住職は、いち早く除染に取り組み、自宅裏山の敷地を仮置き場として市に提供し汚染土を保管、地域住民に安心を与えています。

上昌広先生は、震災直後から南相馬市・相馬の医療支援に入り、WB C (ホールボディカウンター)の導入などに尽力、地域住民の心と体のケアに当たっています。

またこの日は、WB C (ホールボディカウンター)で多くの南相馬市民の内部被曝検査に当たってきた、東京大学医科学研究所の坪倉正治(つぼくらまさはる)先生や、 相馬高校に教育支援に入っている大手予備校カリスマ講師の藤井健志(ふじいたけし)先生にも電話でお話を伺います。

藤井健志先生は、東大剣道部出身で、上昌広先生の後輩にあたります。

歯に衣着せぬ「つるりん和尚」の暴走をどう止めるかが、番組の鍵となります。

そして、和尚から明日はスペシャルゲストがあると聞いています。

いったい誰なのか!

お楽しみに。

放送は、明日夜7時から9時までの2時間。

番組は、ユーストリームを通じて、映像と音声を世界中に発信します。

県外の方は、パソコンでお聴き下さい。

 

月曜日の夜7時から放送する「月曜Monday ( もんだい)夜はこれから)は、ユーストリームを通して、音声と影像を世界中に発信。

県外の方は、パソコンかスマホでお聴きを。
 

月曜Monday 夜はこれから(9月24日)
http://www.ustream.tv/recorded/25671729