第489話  内部被曝通信 福島・浜通りから~帰村しても内部被曝リスクは上がらない――川内村

 

 
内部被曝通信 福島・浜通りから~帰村しても内部被曝リスクは上がらない――川内村

この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。

南相馬市立総合病院
非常勤内科医 

坪倉 正治

ひらた中央病院で行っている川内村民の内部被曝検査の結果( http://www.fukkousien-zaidan.net/research/index.html )が公表されました。

川内村とひらた中央病院は2011年9月に提携して以来、内部被曝検査を無料で全村民に提供しています。

2012年1月31日、遠藤雄幸村長は帰村宣言を発しました。ご存知のように川内村は、避難を強いられた多くの自治体の中でいち早く帰村に向けて動き出した自治体です。帰村宣言以後、ひらた中央病院では川内村のスタッフとともに、被曝量のチェックをすることで、帰村された方々の健康を見守り続けています。

外来では2012年4月以降、問診で帰村しているかを聞きながら、特に帰村している方に、内部被曝を防ぐにはどんな食品に気をつけるべきか、どのような生活上の注意点があるかを重点的にお伝えしてきました。

上記は2012年4月から 2013年3月末までに受診された347名の検査結果です。結果としては、検出限界(300Bq/body)を超える方は3%弱、97%の方が検出限界以下であることが分かりました。多くの方が検出しない状況は、他の福島県で行われている検査結果と大差ありません。

そして、帰村している方と帰村していない方で、Fastscanが検出できるクラスの内部被曝量に差がないことも確認されました。帰村している方、往復している方、未帰村の方の3つのグループの間で、セシウムの検出率に統計的な有意差がないという結果です。ここで帰村している方は、川内村に週4日以上生活されていらっしゃる方、未帰村の方は1日以下の方と定義しています。

セシウムによる内部被曝のほとんどは汚染食品の摂取で起 こります。帰村という行為自体が、それだけで内部被曝を増やさないことは理論的には当然なのですが、今回は、この「検出率に大きな差がない」という結果が、「帰村している方は明らかに地元野菜を摂取している頻度が高いにも関わらず、実現している」ことも分かりました。

帰村後に、汚染食品を多く摂取している状況ではないこと、もう少し踏み込むと、食品検査がしっかりされており、汚染度の高い食品を避けながら生活できていることがうかがえます。

汚染は地元産の食品に満遍なく分布している状況ではありません。明らかに出荷制限のかかるような食品にリスクは集中しており、それを避けることが出来れば、セシウムによる大きな内部被曝は起こりづらい状況です。

もちろん、全 員が検査を受けてくださったわけではありません。いわゆるセレクションバイアスがかかる可能性のあるデータではありますが、少なくとも、「帰村したとしても、(地元産の食品を全く食べないということではなく)明らかな高汚染食品を避けることが出来れば、十分に低いレベルの内部被曝リスクに抑えられた生活をすることが出来る」ことは示されていると思います。理論的には「そりゃそうだ」という話なのですが、それが実際のデータで示されたことは大きいと思います。

川内村には7カ所11台の食品検査器があり、前年度に2655件ほどの検査が行われたそうです。高い汚染が示された食材は、キノコ類や山菜類、獣肉類などで、他の地域の検査結果と変わりません。明らかな汚染のある食品 の種類を基本的な知識として、多くの方が身につけていることが大切なのだと思います。

もちろん、川内村では放射線のことだけが問題な訳ではありません。元々の人口は3000人、完全に帰村されている方が約500人、週に4日以上通っている方を含めると1200人ぐらいで、少しずつ人口は増えているといいます。しかし、八つの行政区のうち一つが帰宅困難地域のままです。除染については、居住空間は一通り終わったそうですが、今後の再除染も含めて議論中だといいます。

遠藤村長は、やれることを一つずつ、愚直に愚直に続けるしかないとおっしゃっていました。川内村のスタッフやひらた中央病院の皆さんの努力に敬意を表したいと思います。

今回の記事は転送歓迎します。そ の際にはMRICの記事である旨ご紹介いただけましたら幸いです。

MRIC by 医療ガバナンス学会