第60話 サイレント

 

南相馬市原町区萱浜(かいはま)。津波で138人が亡くなった。

全盲で福島県盲人協会会長の阿曽幸夫さんが、津波に流された家の基礎に立ち、耳を澄ます。

「音がない。生活音が全くしない」

この場所から800メートル東が大平洋。遮るものは何一つない。
阿曽さんの頬を浜風が打つ。

「風が直接顔にあたる。何かにぶつかってあたる風とは全く違う。本当に、何もなくなってしまったのかがよく分かる。ここには、東西南北も季節もない」と。