第525話  内部被曝通信 福島・浜通りから~そこにある日常に目を向けて

 

 
この原稿は朝日新聞の医療サイト「アピタル」より転載です。

南相馬市立総合病院
非常勤内科医
坪倉 正治

2013年8月7日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 

福島県の浜通り以外の場所で、相馬や南相馬での検査結果や状況をお伝えする機会があります。先日は筑波でした。坂根みち子先生にご紹介いただき、先生のクリニックと筑波大学で、現地の状況を話しました。先週は杉並区の阿佐ヶ谷や高円寺でも、お話しする機会をいただきました。

震災当時に浜通りに住んでおられた方、ボランティアでよく現地に行かれている方、興味で聞きにきてくださる方など色々な方がいらっしゃってくれます。市立病院に震災時入院されていた方から逆に、当時の状況を教えていただたこともありました。

元々このような会は、浜通りから震災後避難された方に、現地の状況がどうなのか、話したり相談したりする機会を提供できればよいなと思って始めたのです。山形に行ったり、名古屋に行ったり、色々な方々に助けていただきながら続いています。

福島県内でも、そうだと思うのですが、そこから離れるとさらに猛烈な「風化」を感じます。もちろん、来てくださった方々の中で、話を聞いて偏見が無くなったとおっしゃる方、生活スタイルが実際に変わった方、周りに現地の状況を伝えてくれる方も多くいらっしゃいます。

しかしながら、段々と参加してくれる方が少なくなりました。

とあるメディアの方からこんな話を聞いたことがあります。

放射線のことは、誰かが悪いという話か、誰かが頑張っているという話を作っても、現在の状況を伝え、あのとき何が起こったかというドキュメンタリーでも、放射線の科学的な話をしても、もはや視聴率が取れない。巨大イカや動物の話の方が視聴率がいい。やるなら、震災後xxx年とか、そういった時期を狙って、そこで番組を作るしかない。

とある政治家の方からはこう言われました。

もう復興予算としてお金は山のようにつぎ込まれているよ。なのに何でまだ足らないとか言うの?「(私が)これこれの体制の整備を進めて欲しいとか、あれが足らない」と言っても何か出来ることはないよ。自分たちでやってもらわないと。

参加者の一人からは、こうでした。

普通に現地の状況についての話をしてくれてビックリした。もっと思想的な話や、イデオロギー的話ばかりなされるのかと思っていた。運動とか活動とかそんな形のものには関わりたくなく。だから、周囲の人を(お話会に)呼ばなかったんだ。

これらは、今も現地で毎日を懸命に暮らしていらっしゃる多くの方にとって、受け入れがたい話だと思います。もちろん、そうではない方も少なくない。ただ、このような状況があることも事実です。

汚染水が漏れたことは知っていても、東電がxxxということをしたということは知っていても、夏祭りや花火大会にこんなにたくさんの人が参加したり、じゃぶじゃぶ池で多くの子供たちが笑顔で遊んでいたり、多くの方が普通の日常を淡々と暮らしていることは、知られていないのです。

もちろん、何も問題がない訳ではないです。今の「普通」が遠くの人には余り伝わっていないのだろうな、と感じました。ただ、その普通が伝わって欲しいと思う人も少なくなってきているのでしょうか。それとも、そんなことは考えないぐらいに、既に普通なのでしょうか。わかりません。

やっと梅雨が明けて暑くなってきました。折角の夏休み。多くの西日本やまだ見に来たことが無い方に、現地に足を運んでいただき、現状や、まだ手つかずで残っている場所が多くあることなど、見て欲しいと思います。きっと見に来てくださるだけで、変わるものがあるはず。

写真:杉並でのお話会でナッポさんと。

今度、南相馬と杉並の子供達でミュージカルが行われる(https://readyfor.jp/projects/37nouta )そうです。子供達も踊りの練習頑張っているそうです。

今回の記事は転送歓迎します。その際にはMRICの記事である旨ご紹介いただけましたら幸いです。

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