第462話  堀潤さんと④

 
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堀潤さんと取材④

浪江町を後にして、昨年4月16日に警戒区域が解除された南相馬市小高区に入った。

警戒区域解除から1年以上経つ小高区は、ライフラインの復旧が進まず、住民は未だ住むことは出来ない。

この日JR 小高駅前では近くの双葉屋旅館の皆さんが総出で、ヒマワリを植える等花壇の整備を行っていた。

「どうして、ヒマワリを植えているのですか」堀潤さんが聞いた。

双葉屋旅館の奥さんが答えた。

「まだ、誰も住めない小高だけど、荒れたままにしておけないでしょう。駅前は町の顔だから、綺麗にしておきたいのよ。若い人達はもう戻って来ないけど、私達にはこの町を守ったていく責任があるのよ」と。

駅前通りを西に歩くと、金物屋さんが店の片付けをしていた。

「店に入って、ネズミの小便と糞の臭いを嗅いで行け」

店主に促され、堀潤さんと一緒に店に入った。

ネズミの足跡に覆い尽くされた店内は、小便のすえた臭いと糞の悪臭に溢れていた。

店主が言っ た。

「商品は全て売り物にならない。生き甲斐まで、無くなっちまう」。

店を出て歩きながら堀潤さんは言った。

「テレビや新聞・ラジオでは伝わらない被災地の臭いを体験出来た事は、私にとって大変な収穫です」と。

この小高区に、堀潤さんに会ってもらいたい人がいた。

「菓詩工房わたなべ」のオーナー・渡辺幸史さんだ。

店の前には「必ず小高で復活する」というメッセージが掲げられている。

渡辺さんは冷凍庫を開けて腐ったシュークリームの材料を見せてくれた。

鼻をつく複雑な臭気が漂う。

「この1年は行政や東電との闘いだった。腐った材料が俺を励ましてくれた。でも、心が折れそうになった事もある。そんな時、家族が俺を支えてくれた。大学生の息子が菓子職人を継ぐと言って大学を辞めた。ビックリしたけど、嬉しかた。今は菓子の専門学校に通っている。俺ら大人が立ち止まってたら、子供達に笑われちまう。頑張るしかないべ」と。

堀潤さんはただ頷いて渡辺さんの話を聞いていた。

渡辺さんは堀潤さんに再開する菓子 店のデッサンを見せた。

お城の様な外観で、店内には2階から1階まで滑り台が設置されている。

「どうして、滑り台があるんですか」、堀潤さんがたずねた。

「南相馬市の子供達に夢と希望を持ってもらいたいから。菓子屋はただ菓子を売るだけじゃダメ。ここにいて良かったって、子供達に思ってもらいたいからね」と笑顔で答えてくれた。

店の再開は来年春の予定。

小高に戻る布石として、南相馬市原町区にオープンする。

「必ず、ケーキとシュークリームを買いに来ます」。

堀潤さんはそう言って渡辺幸史さんと、かたい握手をかわした。