第303話 チューリップ
団地内の花壇。空間線量は0・2マイクロシーベルト。
除染の名のもとに、地元のお年寄りが20年かけて整備した花園が不毛の更地となった。
この一帯には、春はマンサク、レンギョウ、チューリップ、芝桜が咲き誇り、住民の目を楽しませてくれた。
小型ショベルカーが、20年かけて造った癒しの庭を、一瞬にしてに壊していった。
しかし、それから10日後、その不毛の地に、命の象徴ともいえるかチューリップが目を出した。
これは除染後、誰かが球根を植えたものではない。
地域のお年寄り達の愛情を一杯に浴びたチューリップが、ショベルカーの魔の手をくぐり抜け、「僕達は生きてるよ」と
叫びながら顔を出した。
半年後ここはまた、癒しの花園になることだろう。
2013年3月30日 | その他