第275話 答辞

 

 
3月1日卒業式での、小高工業高校前生徒会長・高野桜さんの答辞です。

高野桜さんは震災後の小高工業高校を、小さな体で懸命に引っ張り、まとめてきました。

また、福島県では唯一の高校生平和大使に選ばれ、核廃絶に向けてのスピーチを、ジュネーブの国連欧州本部で、英語で行いました。

答辞

梅のつぼみもほころび、寒さの中にも春の息吹が感じられるようになりました。
この佳き日に卒業式を迎えられたことは私たちにとってこの上ない喜びです。お忙しい中ご出席くださったご来賓、保護者の皆様に、卒業生一同、心から御礼申し上げます。

真新しい制服を身にまとい、期待と不安を抱えて臨んだ入学式。あれからもう三年が経ちます。あの東日本大震災と原発事故によって毎年ちがう校舎で学ぶことになった私たちの高校生活は予想もしなかったことものになりました。思い起こせば、一言では言い表せない、いろいろなことがありました。多くのものを失いながら、小さな幸せを噛み締めてきました。困難や苦労もみんなで支え合って笑顔に変えてきました。そんな日々を過ごせたことが、私たちにとって最高の宝です。

春は満開の桜、冬には綺麗なイルミネーションが輝く素敵な町にあった見慣れた校舎で多くの仲間と過ごす生活が当たり前で、それがずっと続くと思っていました。その仲間たち全員で行った唯一の行事が工業祭です。あの工業祭と、吉名の丘で学んだ思い出は、今も私たちの心の中で行き続けています。

二年目の高校生活は、何が何だか分からないうちに始まりました。クラスメイトは、五つのサテライトにばらばらになり、転校していった仲間もたくさんいました。他校の校舎を借りたり体育館を仕切ったりしての授業は窮屈で、実習や部活動も十分にできず、それまでどれだけ恵まれていたのかがわかりました。

三年生になると、この南相馬市の仮設校舎にサテライトが集約されました。みんなと一緒の授業や実習は今までよりも何倍も楽しく、自分のクラスで過ごせる安心感がありました。進路実現に向けて遅くまで残って勉強や面接の練習をし、進路が決定した喜びをみんなで分かち合いました。部活動は、十分な練習場所や用具がなくても、みんなで練習ができることが嬉しくて、練習に打ち込むことができました。

震災後もさまざまな行事がありました。二年生のときの愛媛県への修学旅行。ハワイアンズでの全校集会、三年生になってからは体育祭や東京での演劇鑑賞。どれもが私たちの胸に一生残る素敵な思い出です。ですがそれに勝るのは、毎日の学校生活です。友達との登下校、睡魔と戦いながら受けた授業、休み時間の会話。こうしたさりげないひとときが幸せだったことを、今、実感しています。一緒に笑い、一緒に悩み、喜びも悲しみも分かち合った仲間達と小高工業高校生として過ごし、卒業を迎えることができたことを心から感謝しています。

目まぐるしく変化していく生活の中で、私たちは何度も心がくじけそうになりました。そんなとき、私たちを支えてくださったのは、先生方と保護者の皆様でした。

先生方は自分も被災者なのに、家族よりも私たちを優先してくださいました。長距離通勤で大変なのに、疲れた顔も見せずに私たちに全力で向き合ってくださいました。たくさんのことを教えていただき、元気と希望をいただきました。この三年間の愛情あふれるご指導、ありがとうございました。

そして、十八年間私たちを見守り、育ててくださった保護者の皆様。私たちは皆様のたくさんの愛情に包まれ、支えられて、ここまで成長することができました。私たちが何より感謝しているのは、震災による多くの問題を抱えたなかで、この小高工業高校に通わせていただけたことです。本当にありがとうございました。

これからの小高工業高校を担う在校生の皆さん。たとえ本校舎に通うことはできなくても、皆さんはこんなに素晴らしい学校に通っているのです。この学校の生徒であることに誇りを持ち、さらなる高みを目指して頑張ってください。大変な状況はまだまだ続くと思いますが、小高工業高校を支え、明るい未来に向けて新しい歴史を作り上げていってください。

私たちがこうして三年間、小高工業高校生として過ごし、卒業できるのも、多くの人達の応援やご支援があったからです。私たちは本当に多くの方々に支えられてここまで来ることができました。人は支え合うことでものすごく大きな力を発揮できることも分かりました。これからはその感謝の気持ちを忘れずに、恩返しができるような立派な人間に成長することを目標にして生きてゆきます。そして福島の復興を信じ、自分の夢に向かって歩んでいきます。困難に直面したときには、この三年間の経験を思い出し、自分が大きく変われるチャンスだと思って、前に進みます。

最後になりましたが、小高工業高校のますますの発展と、皆様のご多幸をお祈りして、答辞とさせていただきます。

平成25年3月1日
福島県立小高工業高等学校
卒業生代表 高野 桜