第266話 小高レポート③

 

南相馬市原町区萱浜(かいはま)。

津波による被害が最も大きかった地域。

137人が亡くなり、今も10人が行方不明となっている。
 
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上野敬幸さん(40)を訪ねた。

上野さんは両親と長女(8)と長男(3)の家族4人を津波で亡くしている。

父親と長男はまだ見つかっていない。

上野さんの自宅は海岸から1キロ。そこへ7メートルの津波が襲った。

しかし、奇跡的に家の外観だけが残った。

回りは何も残っていない。結果、自宅はかっこうのカメラポイントとなった。

玄関前には両親と姉弟の写真、焼香台が置かれている。

しかし、手も合わせず、線香も手向けずに、土足で家に入り込んで写真を撮る人達を上 野さんは許さなかった。

「ここは観光地じゃない、被災地だ!お前が立っているその場所に、遺体があったかもしれないんだぞ」。

原発から21キロの上野さんの自宅周辺は、事故発生直後から、遺体捜索が一時的に打ち切られた。

上野さんは言う、「原発事故がなかったら、助かった命があったかもしれない。原発事故さえなかったら、もっと人間らしい最後を迎えられたかもしれない」と。

言葉を失ったカンニング竹山さんがやっと口を開いた。

「上野さんの苦しみを理解したり共有することはできませんが、上野さんのように家族を失った人達に節目が無いことをこれからも伝えていきます」と。

上野さんは津波で破壊された家の前に、自宅を新築した。それは上野さんの家 族を思う強い気持ちと、男の意地のようなものを感じた。

この日は、金魚アートの深堀隆介さんが亡くなった家族の為に、大きな金魚を描いて上野さんに贈った。

生きているようだった。

西陽を浴びて、金魚は確かに游いでいた。