第152話 弔辞

 
★東日本大震災、県内では5人の警察官が殉職した。
 

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皆、住民の避難誘導中に津波の犠牲となった。

最も若い20代の警察官が未だに発見されていない。

その日、双葉警察署員の増子洋一警部補と佐藤雄太巡査部長は非番だった。

大地震から15分後、署に駆け付けた2人は、パトカーで富岡駅前から沿岸部の住民の避難誘導に向い還らぬ人となった。

2人が乗っていたパトカーは海岸沿いの橋の下で
見つかった。

増子洋一警部補は30キロ沖合いで発見された。

しかし、佐藤雄太巡査部長は未だ行方不明となっている。

★2012年3月11日、双葉警察署富岡分署の庭に桜の苗木が植えられた。

増子洋一警部補と佐藤雄太巡査部長の名前 をとって「洋雄の桜」と名付けられた。

この日、津波で破壊されたパトカーの前で、佐藤雄太巡査部長の慰霊祭が行われた。

弔辞を読んだのは双葉警察署副署長の今野大さん。今野さんは、佐藤雄太巡査部長の警察学校時代の教官。今野副署長の了解を得て、ここに弔辞の全文を掲載する。

 
 

「弔辞」
 

雄太へ

雄太、早く帰ってこい

あれから1年、雄太、今日までよく頑張った。

雄太、もう頑張らなくていいんだ。

佐藤雄太の任務は解除する。

雄太の上司 増子警部補は、我が家に帰って来たよ。

だから雄太、もう頑張らなくていい。

お父さんとお母さんと妹さんが、お前の帰りをどんなに待ちわびているか
わかるな 雄太。

お前は、どこにいるんだ。

どこにいようとも、双葉署員と同期生が必ず見つけ出す。

雄太、今日はな、お前を知っている双葉署員と同期生が、こんなにいっぱい来ているぞ。
見えるか雄太。

雄太の顔を今 思い出している。お前は本当に明るく、ひょうきんで、人なつっこい。誰にでも好かれたな。

上司、先輩には弟のように可愛がられ、一般住民の方にも、直ぐに打ち解け、仲良くなり、行く先々で、みんなに慕われていたな。

それからな雄太、お母さんに聞いたら 女の子に
は、なぜかモテモテだったとか。

早く帰って来い。お父さん、お母さんのところに、早く戻って来い。

雄太、お前は双葉署員の、同期生の、福島県警察官全員の英雄だ。
我々の心の中に、これから先、ずっと生き続けていく。決して忘れない。

雄太、もう頑張らなくていいから、早く帰って来い。

雄太へ
 

双葉警察署署員一同。

 
 

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